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アーカイブ事業フォス校長先生の思い出「フォス初代校長特別展」を観て

5月21日、同期の仲間7人と「フォス初代校長特別展」を見学した。生前の先生の声を聴きながら、数多くのパネルを観て回った。中学時代の英語の教科書やオナスカードなど懐かしい展示物の中に、田浦から大船に移転した翌年、1965年2月発行の「栄光ニュースフラッシュ」があった。一面トップが「移転を終えて」という、フォス先生が生徒のインタビューに応えた記事で、その中の一文に私の目は釘付けになった。
「大船を買うことに決めて東急不動産と交渉した。その他の土地は7,8人の地主さんと交渉した。交渉は大変だったが、岡本の人は好意的だったので、交渉そのものは楽だった」
私は50年以上も昔の出来事を思い出した。
1971年、私の勤務するN信託銀行が大船支店を開設することになり,準備員になった。
夏のある日、岡本地区に在る、母の親戚の農家を訪ねた。私が「栄光出身」と言うと、年老いた主は「わしは土地の売却に最後まで反対していたが、ある晩、校長と名乗る外人が一升瓶を下げてやって来た。二人で飲んでいるうちに、とうとう売ることにした」と語った。
老人の話は今日に至るまで、私の脳裏に釈然としないまま残っていた・・本当にフォス先生が自ら?・・・私はインタビュー記事を繰り返し読んだ。農家の土間で、茶碗で冷酒を飲む先生の姿が思い浮かんだ。短い一文だが、私にとつては大発見だった。
母の親戚を訪ねた数日後、私は栄光学園の取引を取ろうと思い立った。卒業して15年、初めて訪れた母校は夏休みで、事務室には職員が一人だけ。信託商品の有利性を説明したが、らちが明かない。「校長先生はいらっしゃいますか?」しばらくして、フォス先生が現れた。
私は緊張したまま「石川です。お取引のお願いに参りました」先生は眼鏡の奥から私をじっと見て「君は、卒業してから初めて会うのに、もう商売の話ですか」Y銀行一行取引と知っていたが、信託金利が定期預金より高いことを必死に説明した。「7,47%?問題にならないよ。Y銀行は“現先”と合わせて提案してくるよ」
私は“現先”なるものを知らなかった。準備室に戻り本社に連絡すると、栄光と取引出来るなら協力すると言う。再度、先生にお会いした。即、取引開始となった。決定の速さと資金の運用まで先生がされることに驚いた。同年秋、大船支店は開店した。先生に「記念講演会」の講師をお願いに上がった。快く引き受けて下さった。当日の会場はエレベーターホールまで、教育ママやパパ達で満員になった。

「フォス初代校長特別展」で私がスマホで撮ったのは、インタビュー記事の一部分だったので、後日、同窓会事務局にお願いして、記事全文をお送り頂いた。全文を読んで、フォス先生の大船移転に関わるご苦労や教育に対する確たる考え方を知り、大きな感銘を受けた。
以下、「栄光ニュースフラッシュ」より引用(一部要約)
「一番苦労したのは防衛庁との交渉。学校の移転費用は土地の売却代金だけで賄われるのだが、国の方はあまり金を出せないので、岸壁など国に必要な部分は国に売り(6割)残りはオープンマーケットで民間会社に売ることにした(4割)」
「学校が銀行から金を借りるのは大変な問題だよ。しかし、金を借りなかったら移転は不可能だった」
「強制ではなく父兄の意志で集めた祝金は2千万円。うれしかったが、一人当たり2万円。父兄の方に迷惑をかけないようにした。10億円以上かかる事業を考えると、2千万円ぐらい出して学校を手伝うのは常識的に当然じゃないか」
「山を削って谷を埋める、余りの土が出ないようにうまくやらないと、4,5千万円の差ができる。その為、講堂はグランドから60メートル高くなったが、私達の案だ」
「こんど入る人の父兄が、“バスに乗らないのはつらいのではないか”と言った。これはじつにけしからん話ではないか。駅からたった1kメートル、生徒にとって必要な距離だよ。歩くのが当然だよ。バスは許可しないぞ」
「Aオナス,Bオナスというのではなく、ギリギリの成績でも自分の力を最大に出していた卒業生が今活躍している」
「リーダーになるためにしっかりした道徳感のある紳士になってもらいたい。今の世の中では、高く評価される人でもそこまで若い人を引っ張ってやろうというのは、口先だけのことが多い」

私のフォス先生の思い出は、栄光在学中よりも社会人になってからの方が深く、自らの思いを断固として実行する人、という印象が強かったが、若い生徒のインタビューに応える先生の言葉は、私の思い出と重なって、半世紀を経た今も尚、私の心を強く揺さぶった。

先生は、私にとって、人生の師であり、また経営の師であり、そして何よりも有難い恩師であった。

最後に、コロナ禍の中で「本特別展」を企画、開催された同窓会役員の皆様に心より敬意と御礼を申し上げます。

7期 石川 俊克